2018年5月2日(水)、仙川二郎で鍋二郎を頼みテイクアウト、焼酎とともに二郎を食うという至福の時間。

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  文藝春秋の仕事で鍋二郎に挑むことになった。

 『最高の焼酎と最高の料理』というムックで「ラーメン二郎にはどの焼酎が合うか」という企画ページが立てられてそれを書くことになったのじゃよ。ムックって、ブックの形をしたマガジンというのの合成語の、つまり雑誌的な内容の書籍ってやつです。まあそのへんは何でもいいんですが。

 考えたのは文藝春秋の編集者のシバシーくんで、くんったっておれより年下だけどもう50そこそこのはずだ。かつてフランス人女性と付き合っていたことがあるのが自慢だったが、まあ、デブくん編集者である。でないと二郎と焼酎なんておもいつかない。そもそもラーメン二郎は酒飲みながら食うものなのか、という根本的な問題がある。ビールだしてる二郎ってあんまりないからなあ。そもそも巨大な量を食うってのに、酒で腹を膨らませたらよくないだろうという危機感は動物なら持ってるはずで、あまりビールを頼む気にはならないからな。

 今日はテイクアウト。鍋二郎。

 仙川がテイクアウトできるってことはシバシーがネットで調べていて、仙川からでクルマで下北沢のキッチンスタジオまで運ぶことになっている。仙川駅前でシバシーとカメラマンと、学生(3年)ハッシーと待ち合わせして、時間に行くと、まあ、当然のように学生だけいない。ハッシーはそんな感じ。

 仙川店は基本、夜だけで、開店17:30。なので集合は17時でした。

 もうひとり学生(2年)ラマッキーは、先に下北沢のキッチンスタジオへ行って、部屋を開けて、そこで待機してる係。ラマッキーは代官山にすむお代官みたいな学生である。見た目は朴訥だが、住まいはお代官さま。

 さて、シバシーとカメラマンとおれで開店15分まえの仙川店へ並ぶ。まえに4人ほど並んでいる。ここは店に沿って並んで、店端までくると列を曲げるってところで、一列5人ってところなんで、ちょうど列が折れるところでシバシーと並ぶ。そっち側のドアも開いてたので、シバシーはおじさんらしい厚かましさをかまして、ふっと店の中へ頭だけを入れて「鍋二郎をお願いしたいんですが」と鍋を見せつつ言うと「5時半からだから」と一喝されたらしい。「こっええー」とすくんでいた。五十こえても店のおやじに怒鳴られるとへこみます。まあ、フライングしてるのがいけないんだけど。

 仙川店の店長は、怖いというより無愛想系ですね。

 あまり客と喋りたくない感が強く出てる感じ。イメージだけど。

 開店したら順に食券を買って、それを出して「鍋二郎」を頼むんだろうとおもってたら、どうもそうでもないらしい。

 おれらよりあとに来て、わっかりやすく鍋を手にもってぶらぶらやってきたお兄さんが、来たのがだいたい5時半で、つまり先頭が食券を買い出すくらいのタイミングですね。お兄さんは鍋二郎ベテランって感じで、そのまま食券買わずに、さっきシバシーが顔をつっこんだうしろのほうから、「鍋お願いします」と頼んだら、そっちから、すっと出してもらっていて、うーん、初めての店での初めてのテイクアウトの頼み方って難関すぎます。

 鍋二郎として、おれらは順番ぬかされてることになるんだけれど、鍋二郎の並び方も頼み方もわからないので、どうしようもない。まあ、鍋二郎そのものが裏ワザなわけで、通い慣れてる店で、顔見知りになった店長に頼むもの、みたいなのが正当なところだろうから、初めての店でテイクアウト頼んでいて後手に回るのはしかたないところではありますがね。ふむふむ残念残念。

 

 しかもこの仙川の鍋二郎は値段が違った。

 まあ、このときだけだったのかもしれないけど、食券の値段とは違う。

 仙川の鍋二郎は、麺を茹でないで、そのまま渡してくれるので、つまり作られるのを待つ必要がない。中で食べる人と別に外で待っててそのまま受け取る、そのときに現金で払う、ってシステムみたい。

 シバシーは、順番が来たときに券売機で買わずに店長と交渉していて、その交渉内容は聞こえなかったんだけど、どうやら、4人前で2000円、つまり1人前500円になるらしい。券売機で「小」を買えば700円だから4人前2800円なのに、テイクアウトだと2000円。つまり1人前500円。おお。すごい良心的じゃん。

 シバシーはなんか帳簿にのせなくていい怪しい処理のためではないか、なんて勘ぐっていたが、それは週刊文春とかやっていて世の中の悪いやつばっか見てっからだとおもう。あきらかにいろいろサービスしてくれてんだとおもうな。

 

 麺は茹でてないのを4人前。それをスーパーでもらうビニール袋みたいなのにざっくり入れられて、そのへんの雑な感じも二郎らしくていいですね。鍋はふたつ用意していて、1つにスープを入れてもらい、もう1つに具材を入れてもらって、それで運ぶ。

 カメラマンさんのクルマで移動。仙川から下北沢までさくっとはいかない。けっこうかかった。やっと買い終わったあとに仙川駅にのこのこあらわれた学生3年ハッシーにはスープ鍋を持ってもらって、おれも具材鍋を持って、クルマに乗り込む。スープが熱いので、スープ鍋を抱えたハッシー学生3年は、膝にあたるたびに、熱い熱いと言っていて、けっこう熱いスープなのです。

 

 さて、小一時間かかって下北沢のキッチンスタジオにたどりつく。

 まず、スープを温める。

 そして麺を茹でる。たっぷりのお湯で茹でるが、そういや、どれぐらい茹でればいいのか聞いてなかったとおもい、学生たちに「茹で時間、鍋二郎、でググって」と頼んでみると、ハッシーが「8分ですね」とすぐに回答をみつけてきて、インターネット時代は便利でげす。そのとおり8分茹でる。

 あとでちょっと長かったかも、という意見もでたが、おれはこれでよかったようにおもいます。

 

 丼を4つ用意して、まず麺入れて、それからスープをかける。具材の鍋にあるものを、文藝春秋シバシーはいっしょにぐざっと入れようとするので、身を挺して止めて(あたりまえだ)、まずブタを二きれづつのっけて、そしてヤサイを山型にどさっとのっけて、それから丼の端にニンニクをそれらしく盛り付けて、シバシーは、おお、それらしいじゃん、と感心するが、当然ですわい、ごちゃごちゃ混ぜてのせたらうまそうに見えないし、そもそも写真とってムックにのせるんだから、それぐらい考えろよとおもったが、シバシーはフランス人女性と付き合ったことが自慢だから、そういうことは気にしない男なのだ。うぬうぬ。現場はいつも混乱に満ちている。

 

 さて、焼酎は、5種類用意されていた。

 黒糖。芋。米。麦。泡盛

 この5つの焼酎を飲みつつ、どれとラーメン二郎(仙川テイクアウト版)が合うかを試してみるのだ。

 

 やってみるといいけど、めっちゃ、楽しい。

 

 酒を飲みながら、人とべらべら話しながら、それでもある程度のペースで二郎をがつがつ食っていくのが、こんなに楽しいとはおもわなかった。

「こんなに人と話しながら二郎を食ったのは初めてだ」と言ったが、そうですね。二郎ではラーメン提供後の会話は、基本、禁止ですからね。そういう緊張感がないだけで、そのゆったり感がとても楽しい。

 

 しかも焼酎、めちゃうまい。

 まあ、文藝春秋が、焼酎本のために用意した焼酎だから、うまいに決まってる。

 おれが感心したのは「麦焼酎」である。

 芋や黒糖などに比べて、麦は、なんというか、あまりそんな主張のない味と香りだとおもってたから、なめてかかってたが、本物の麦はちがう。めっちゃうまい。めっちゃ香りたかい。それでいて上品。飲みやすい。あとをひく。すげー。

 麦焼酎「野海棠」というやつだ最後の「棠」というのが見慣れない文字だ。

 めちゃめっちゃうまい。

 でもそれは、知りたかったような知りたくないような、つまり日頃いつも手に入れられるものならうまさを知ってもいいけど、簡単に手に入らないのにそういううまいものがあると知るのは幸せなのか問題で、アフリカなどの飢餓に苦しんでる子供たちにチョコレートあげるんじゃないぜ問題でもあるんだけど、そういうやつです。飲んだこともない至高の旨さでした。なんなんだろうね。こういう差ってのは。

  でも、その麦がめちゃうまいと唸ってたのはおれだけで、残りのシバシーも、ハッシーもラマッキーも、それぞれべつの焼酎がうまいっていったので、好みでそれぞれですよ。

 どれが二郎と合うかっていうと、いや、どれでもいいよ。まじで。

 おれは、二郎はいろいろ味が強いから、焼酎としては「黒糖」が合う感じがした。相性でいえば黒糖がいい。

 ただ飲むなら麦の「野海棠」。

 どれが二郎と合うかという意見では、文藝春秋シバシーは芋、3年ハッシーは麦、2年ラマッキーは泡盛、ときれいに分かれた。きれいに分かれすぎ。

 結論としては、どれでもいいよ、ってことになる。

 

 うまい焼酎と二郎はそこそこ合いますし、でもそれはテイクアウトでしか楽しめない。そういうことだぜ。

 

 テイクアウトの鍋二郎は、めっちゃ楽しい、ということがきちんと確認できた。

 よかった。