2018年4月23日(月)、三田二郎本店にていきなり列最後尾の断り役を担うが、強敵あらわる

f:id:horiken-jiro:20190815020657j:plain

  二郎をまわろうと、ずいぶん前に決意をしていたのだけれど、なかなか旅立てずに、やっとこの4月23日(月)、ハッシーと三田本店へ出向くことになった。

 高田馬場に18:30に集合して、田町から急ぎ二郎へ。東京タワーが見える。武蔵野に国木田独歩のように暮らすハッシーは都会の塔にしばし見とれる。田町駅ですでに19時をまわっていた。慶応大学の前を通るのが19:10を過ぎている。栗の王者慶応。

 ひょっとしたら、もう列が締め切られてるかもなあ、と急ぎ近づいていくと、三角ビルを曲がって、裏口に列が伸びていて、その最後尾に太った店のお兄さんが立っていた。うわ。うわ。もう締め切ったかとあせると、お兄さんが「食べますか?」と聞いてくる。食い気味に「くいくいくい」「食べます」と答えると、「じゃ、ここで締め切るので、あと並んだ人を断ってもらえませんか」と頼まれた。

 

 なな、なんと。

 二郎冒険の最初から「断り役」を担うとは、何ということであることであることか。

 先の帝の御代に三田本店には一、二度きたことがあって(昭和のころに2回ほど来たことあるってことですな)その後も平成時代も何年かに一度はやってきていたけれど、わりとひさしぶりです。ハッシーは二郎初体験。

 わたしホリケンより、どうみてもハッシーのほうが人当たりがいいから、じゃあ、ハッシーが来た人に断ってね、というと、ええええええええっと、とぶるぶる震えだす。ふるえるなよ。なんだよ。

「いやだって、ど、ど、ど、どんな、だって、どんな」

 落ち着いて。

「いや、危ないですよ」 

 よくわからん。

 お店は20時までだけど、列が締め切られたのはこの日は19時15分。まあ日によって違うんでしょう。26,27人くらい並んでた。

 でもまだ19時15分だから、二郎を食べたい人はやってくる。

 あきらかに堂々と近寄ってくる人は「あ、もう、終わってますので」と言いやすいが、なーんとなく近寄ってきて、なーんとなく遠巻きにして、小動物のようにそそっと近寄ってくる人は声をかけにくい。もう締め切ってますよ、と言ったら「えー、なになに、おら、ならんでるんじゃないんだもんねー、このへん通っただけだもんねー」と言うかもしれないので(ぜったい言わないだろうけど)、つまりあきらかに並ぶ意志を見せないと断れないってことなんですよ。こっちも断るの素人なんで。みんな、締め切られてそうなときは堂々と並ぼうとしてほしい、そして堂々と断られて欲しい。それが断り役の願い。ほんと、何となく見てるのか、並ぼうとしてるのか、ちょっとわからない人がいるんですよね。真後ろに並ばないで、3メートルほど離れて立ったりして、断りにくいっすよそれ。時代劇の斬られ役は斬られたとわかるように斬られるから斬られ役らしく見えるわけで、何というか、そういうのを希望します。いや、何となく。

 

 なんだかんだと、数分に一人くらいのペースで二郎食いたいマンがやってきました。

いちいちやさしく断りました。

 一人、びしっとしたスーツの紳士がやってきて、もう、いかにも慶応大学OBでばりばりやってますって感じで(意外と早稲田かもしらんが)、その人にもう締め切りましたというと、ああ、と爽やかに納得して道のほうへ出て、すっとタクシーを止めてました。おお。かっちょいい。二郎から二郎へ、タクシーを走らすエグゼグティぶーなさらりーまん。かっちょいい。どこの二郎へ走るんだろう。三田からだと、うーん、品川か、目黒か。そのへんかなあ。いっそ、京都店まで、なんて言ってたりして。それはただの馬鹿ですね。まあ、目黒は遅くまでやってるから目黒かなあとおもったな。

 断り役をやってるだけで、なんかいろんなものが見られます。

「いや、誰も怒らないですね」とハッシーは言う。

 彼はもっと怖い客を想像していたらしい。危ないってそれか。

「なに、もう締め切っただと、おらおらおら、おめえか、おめえが食わせないのか」と迫られるにちがいないとおもって、怖かったらしい。そんな人はいません。二郎好きな人はみんな紳士です。すくなくともこの日はそうだった。

 

 列がどんどん短くなり、待ち時間が20分を越え、そろそろ入口が近くなってきたとき、時間としては19時45分をすぎてましたかねえ、店まで並んでる人が6人くらいになったので、そろそろ食券を買いにいかなきゃというときに、また、並ぼうとした人が来ました。これはカップルでした。あ、もう終わりましたから、と声をかけて(最初ああはいったけど、けっきょくハッシーと私は交互に断り役をやっていたのだ)、私は食券を買いに店内に入って600円というちょー安い食券を2枚買って、列に戻ってきた。けれど、その夫婦はまだ立っていた。

 見た目は五十代くらいかなあ、なんというか、ロハスぽいというか、自然好きぽいというか、まあ、本物のロハスが二郎に来るとはおもえないけど、見た目の感じですね、独歩じゃない武蔵野中央線沿線の匂いがするようなカップル、その二人は、ぼんやりと立ったままなのだ。

ハッシーが、あ、ダメなんで、ともういちど念を押していると、

「えー、でもー」

と女性が答える。

 ええっ。ええっ。えええええっ

 断られても、「でもー」と言えば許してもらえるって雰囲気を出されても困るし、まあ、十九歳の女子大生はそういうことをやりますけどねえ、一女はずるいよ、いえ、べつだん非難ではありません、でもその戦法でこられるにしては、見た目も年齢もかなりきつくて、髪が長いからいいでしょってものでもなくて、いやいやいやいやー、でもー、で押し通すのはやめてくださいよー。アジアの露天で値切ってるんじゃないんだから。アジア旅も慣れてるわよ、という雰囲気がないでもない。どうでもいいんだけど。

  とりあえず断られても「えー、でもー、でもー」と言ってれば、何となってきたんだもんわたし、という雰囲気をだしていて、かなり怖いです。

 再び私が「ダメだよ、もう締め切ってるんだから」と強く出たがそれでもまだ「えー、でもー」と反応してきた。

  うわうわうわ、怖い怖い。切れられるよりすごく怖い。聞いてない。人の話を聞いてないし自分のおもいどおりにしようとしていて、怖い怖い。ホラーじゃん。

 列を締め切ったの19時15分で、それからもう30分経ってるし、あり得ない、その間に二十人くらいの客が入ってくのを待ってたわけで、いまからここに入るのはどう考えても理不尽なんだけど、その理不尽を越える理不尽存在として、そのあぶらっけがない五十代の髪の長い女性と、そのうしろにひっそりと立つ男性は去らないのであった。

 悪夢か。

 何の試練でしょう。

 

 と、その二人のうしろに、ちょっと太った若者が並びはじめた。

 いかんいかん。謎の列が形成されそうになっている。

 あわてて、うしろのほうの入口のほうへ私は駆け寄って店の中へ向かって「あのー、最後尾で列を断ってたものなんですけどー」と声が裏返りそうになりながら小さく叫んでしまった。(すでにゾンビものの映画の登場人物みたいな気分になってます)。「断っても断っても断っても、生き返り死に返り、去らないお客さんがいますので、なな、なんとかしてください」というような意味のことを言った。いや、そんなことは言ってない。でもなんか言った。よくおぼえてない。とにかく手に負えないとは言いました。

 店から太った店員さんが出てきて、うしろの3人に丁寧に「もう、いまお並びの方で麺がなくなってしまったんですよ」と穏やかに説明した。そのゾンビ女性はまだ「えーっ」といいつつ、さすがに納得するしかなくて、納得して、消えていきました。目を離してふっと振り返ると、もう、そこには誰もおらず、シートがぐっしょりとなっていました。

 なんて、シートって何だよ。どんな怪談だ。濡れてません。

 

 ふー。大変だった。

 

 われわれは44分待ちで、だいたい20時直前に入店、入ってまっすぐの奥2席に案内されました。三田本店は、水は出してくれるのがいいですね。水を飲むと店の人が注いでくれる。そんなサービスは本店だけ。すごいね。

 本店はカウンター低くて、なかの作業がぜんぶ見えてるのがとても楽しい。

 やはり麺がたっぷり、スープは少ないよなあと感心して見ている。

 おれたちが最後なんで、食べ終わった客はどんどん去って、そのあと誰も座らない。食べてるうちに、がらがらの店内に5人ほどという風景になって、本店のこんなすいてる風景をみるのも珍しいなあ、とおもいました。

 本店のラーメンは、やっぱいいよなあ。これで600円。すばらちい。

 ハッシーは二郎初体験なので、いろいろと緊張していましたが、無事、完食。無事、帰りました。

 帰り道に、あのロハスな夫婦が待ち伏せしてるんではないか、おれたちを倒しておれたちのどこかから二郎エキスを吸うんじゃないかとハッシーは恐れて、手を振り回しつつ歩いてましたが、三田は都会なので、そんな悪が潜むスペースはありませんでした。

 よかったよかった。

 

 そういえば高田馬場「べんてん」では、列の最後尾で「そのあとから来る人を断る役」をやると、卵などをサービスしてくれたもんでしたが、二郎はそういうのあるんだろうか、あったら、逆に食べられなくなって死ぬよなあ、と恐れてたら、そんなのはありませんでした。なくてよかったです。

 いきなり初二郎で、列の断り役をやるハッシーというのもかなり二郎の引きが強いなあとおもった、二郎冒険の始まり。